Yamaha サイレントベース SLB300を2024年9月28日13:14にクロサワ楽器日本総本店で購入した。この楽器の素晴らしさは、楽器として質の良さや携帯性だけに留まらず、深夜でもコントラバスに限りなく近い音で練習できるので、ライフスタイルもこの楽器によって変えられてしまった。忘れないうちにSLB300の感想をインターネットに残しておく。
◯見た目
飛行機のような見た目。スタンド含めるとかなりの大きさになる。目視で分かるぐらい高級感がある。ボディ細部にも木目の違いがあり、YAMAHAの拘りを感じる。
ペグは音程狂うことなく、頑丈な作り。材質はスチール(?)のように見える。ボディが小さいのもあり、音程が気温/湿度変化による影響を受けづらいのもある。
追記(10/20): 現在、日本では10°C以上の気温差があり、SLB300の音程は多少変動するものの(±20Hz)、コントラバスほど不安定ではない。
追記 (11/1): 不思議なことに、気温変動が始まった時期を過ぎると、SLB300は10°C以上の気温差があってもチューニングがほぼ狂わない。不安定さは季節の始めだけの問題だった。
ネックは若干ダークブラウンを基調とした塗装がされている。手触りが良い。
◯材質
使用している材質は目視で分かるレベルで高いように見える。実際に触ってみると、指板とネックの木材が硬質であることに気づいた。昔アメリカで持っていたハイブリッド単板のネックや、今持っている合板のネックと比較しても、触った感じでは一番硬く、木の密度の高さが分かる。同様にローズウッドの指板も硬質で深い黒塗りがされている。
公式情報(材質)
棹部:メイプル
胴部:スプルース / マホガニー
フレーム:ブナ(着脱式)
指板:ローズウッド
ブリッジ:メイプル(高さ調整付)
テールピース:エボニー(リバースタイプ)
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SLB300でもテールピースにエボニー使用しているのは良い。SLB300PROは棹部(ネック)がカーリーメイプル、指板はエボニーになったことでSL300より重量が+200g増す。カタログスペックには記載がないが、ブリッジのアジャスターは推測アルミのように見える。
アジャスターにはSLB300PRO用に選定したアルミ合金材を使用し、これらのアップグレードによりさらにレスポンスに優れたクリアな音となっています。
ちなみにSLB300 PROのアジャスターは公式によるとアルミが使用されている。冷間圧延炭素鋼や真鍮など色々試した結果、アルミに落ち着いたのか気になっている。YAMAHAのサンプリング音源や実験データが公開されてくれたら嬉しい。
エンドピン周辺。テールピースはエボニーで目は粗いように見える。コントラバスのテールピースは穴にボールエンドを直接通す。一方でSLB300はリバースタイプのテールピース構造で、ボールエンドを通した後、一度折り返してペグに巻き付けている。
エンドピンは16mmのステンレス製。ホームセンターのパイプより内側が太く剛性がある。コントラバスと比較して、エンドピンをかなり長く伸ばす必要があるため、一般的なエンドピン(10mm)に対して、SBLは16mmでステンレス製なのは理にかなっている。
◯弦高
弦 | サイレントベース | コントラバス |
G | 3.1mm | 4mm |
D | 4mm | 5.2mm |
A | 4.5mm | 6.3mm |
E | 6.1mm | 7.1mm |
合板コントラバスと比べてかなり弦高は下がったものの、サステインが大幅に増し、合板コントラバスに山程あったデッドポイントは今のところ見当たらない。完璧に調整してくれたクロサワ楽器に感謝したい。SLB300はオモチャでなく楽器そのものであるから、ネットで中古で買わず専門店で調整してもらった上で購入して正解だった。クロサワ楽器には「ピチカートで強めに弾いた時にバズらない範囲で弦高を限りなく低くして欲しい」と依頼したら、求めていた通りのセットアップで提供してくれた。対応してくれたスタッフの方も上手なジャズプレイヤーだったので、ピチカートのダイナミクスとバズり具合に関して知見があるようだった。ピンポイントで頼んだニーズに応えてくれるあたりクロサワ楽器の対応は良かった。
◯弦の種類
弦はダダリオのヘリコアハイブリッドのライトゲージが張られている。この弦は同メーカーの「ピチカート ライトゲージ」よりもテンションが若干強い。私はこの強さも含めて気に入った。ジャズでピチカートする場合、弦はテンション緩めの方が弾きやすいと考えている。一方である程度テンションがあると、弦を弾いた直後の跳ね返りが少なくなり弾きやすい。また弦の振動幅が抑えられバズりにくいと考えている。ダダリオピチカートが手元にあるがハイブリッドの音が良く、わざわざ弦を取り替えて検証するのを躊躇っていた。ダダリオピチカートをSLB300に張ったが、音のサステインは減退し、バズりやすくなったためハイブリッドに戻した。自身の弾き方と現状のローアクションでは、ハイブリッドが適していることに気づいた。
◯インプレッション、使用感
音がいい。弦高が低く弾きやすい。ネックは自分が持っていたコントラバスより若干U型に近い。私のコントラバスはネックをリシェイプしてもらったのもあり、どちらかというとV型に近い(このネックの形が特殊なだけかもしれない)。これらが弾いて数分で感じた最初の感想だった。また、ネックと本体の接合部分はそれほど太いと感じないが、もう少し細く削りたいと考える人もいるかもしれない。Talkbass.comではネック削ってリシェイプしたユーザーを見かける。
ちなみにコントラバスも立てかけることができるほど、ワイドな三脚となっている。
ちなみにネックはD or Eb だとD型にあたる。購入する際それぞれのタイプをメーカーに指定できるかは分からない。私がクロサワで手に入れた時は特にあ聞かれなかったので、D型がデフォルトだと考える。
他インプレッションとして気付いたのは薬品のような匂いが強い。嫌な匂いではない。おそらくクロサワ楽器で指板に塗った黒い塗料から来ている。クロサワ楽器特有の問題で別ストアで購入した場合は気にする必要ない。
◯音
音は限りなくコントラバスに近い巨大なフレットレスベースという感じがした。高域のサステインがブライトでよく伸びるあたり。だが、この音が素晴らしい。電源OFF→ONでマイクのシミュレーションやEQ(High/Low)を追加できる。後述するが、パッシブ(電源OFF)のピエゾピックアップを使った状態だけでも、輪郭がハッキリ分かる良い音がする。ピエゾ特有のアコースティック感や空気感を追い求めた結果、中途半端で輪郭や芯の無い音、という感じではない。SLB300のピックアップ自体が既に優秀で、いい意味で”ピエゾ独特の空気感”がない、パワフルなサウンドを拾ってくれる。一方でエレキベースのようなPUとも違い、電気的音色でもない。あくまでオーガニックな音色に近い。KALA ウクレレベースのPUに硬さ、厚み、輪郭を足した感じ。前例がないという点で不思議なPUだと思う。また、コントラバスと比べて内部空洞体積が少ないにも関わらず、楽器本体がよく振動する。身体と接点であるフレーム越しに、ボディからの振動を感じる。ハイポジションで高い音を出しても、弦や指板の振動が伝わってくる。ネックもよく振動する。アクースティックなジャムができるまでの音量ではないが、アンプ無しでもギリギリ練習できる。チューナーがギリギリ音程聞き取れるレベルの音量。ちなみに楽器本体から20cm以内の距離で音圧を測ると、SLB300は50-70 dbだったのに対して、コントラバスは70-80dbだった。dbは対数スケールなのでこの差は大きい
ちなみにフレットレスベースらしいと感じた点の1つとして、3オクターブ上のG以上の音をピチカートすると、鋭いサウンド、スチールパンに近い音がする。
極微なニュアンスの違いでしか無いが、この僅かに聞き取れるブライトなトーンが、コントラバス音色との分かれ目だと感じる。この点については、よりダークなサウンドの弦に変えることでよりオーガニックなサウンドに近づけることができるかもしれないので潜在性がある。
◯ 電装系
•EQ、コントロールノブ
電源OFF→ONに切り替えると音量が一気に上がる。YAMAHAの説明所ではOFFの状態は電池が切れた時などの緊急時に支障なく演奏するため、と書いてあったが、OFFの状態でアンプ通すと音量は遥かに小さい。OFFで使用する場合、一定のワット数がアンプに求められる。そしてONにすると、EQのトレブルとベースに加えてピックアップ(PU)⇔マイクシュミレーション(MIC)の比率調整が可能になり、ブレンドコントロールノブで調整できる。また、このブレンドノブを長押しすることで3つのマイクシミュレーションを切り替えることができる。
1.Rich:定番ヴィンテージ真空管マイクによるバランスよく濃密なサウンド
2. Simple : ダイナミックマイクによる抜けのよいすっきりとしたサウンド
3. Warm : 1とはことなる真空管マイク名機による低域よりで温かみのあるサウンド ブレンドコントロールノブ
1のRichは音域のバランスが良い。2のSimpleはミッドがより強くでる。3つの中で一番抜けが良い。3は輪郭が消えて立体感が増す。私のお気に入りは2のSimpleでPU90%/MIC10%の比率。色々試した結果、アンサンブルの抜けの良さを求めるとPU全振りが一番良く聞こえることが分かった。ただそれだと「フレットレスベース」的音色に近い。MICを若干入れて、アコースティックな空気感を取り入れつつ、できるだけ輪郭を保つようにした。試行錯誤した結果、PU90%/MIC10%程度の比率が好みであることが分かった。
MICを上げると音の鮮明感は減退する一方で、ガット弦のようなトレブルが抑えられ、音に深みが出るような空気感に近づいていく。これはこれで興味深いサウンドだと感じた。このブレンドノブと合わせてEQと3つのマイクシュミレーターで色々なサウンド作りが手元で簡単にできるのは楽しい。
•バッテリー
ちなみに単3電池×2で動く。バッテリーボックスの爪を押すと取り出せる仕組みになっていて地味に使いやすい。私の場合、バッテリーは1週間半に一回変える程度の頻度でバッテリー持ちが良いとも悪いとも思わない。公式ではアルカリ電池の場合32時間稼働すると記載があった。バッテリーが切れる4時間前になるとブレンドコントロールノブが赤く点滅する仕様となっている。
◯気になる点、改善点
音の欄で記載した通り、限りなくコントラバスに近い巨大なフレットレスベースのような位置づけだと感じている。その理由の一つとして、身体の密着感の違いがある。立ってコントラバスを弾く場合、私は左足のかかとを挙げて、左膝でボディを支える方法に慣れていた。左手でハイポジションからローポジションにスライドする際に、ネックを少し垂直に立てる癖がある。その時に左膝でサイレントベースを固定できないことに違和感を感じていた。これは別売りのSBL300用オプションパーツ、膝当てを使えば解決できるかはわからない。あれは座奏専用に見えるため、立った状態で膝が届くか今後確認する必要がある。
追記(11/21): 指版上、「No Man’s Land(無人地帯)」と呼ばれているE弦のHigh Aあたりでピチカートすると、構造上、足で支えることができないため、SLB本体が回転して力がうまく伝わらない問題がある。文字通り無人地帯で、あまり弾くことはない指版エリアなので問題ないが、できればSLB本体を固定できるような仕組みがあればと思う。
指板の耐久性がどこまであるかも気になっている。品質の良いローズウッドでも一般的にエボニーよりは硬くないため、今後どの程度指板が削れていくか経過観察。
SLB300が本体にヘッドフォンジャックを廃止したことも気になる。バッテリーの持ちを懸念して排除したというよりは、SLB300は200、100と比べると、練習用の楽器というよりはライブやレコーディングで使用できるレベルなので、Yamahaの意図的なデザイン、およびブランディングだと思量する。
◯SLB300用オプションパーツ
•スタンド
スタンド、フレーム、膝当ての3つがある。現在は膝当て以外持っている。スタンドはないことが考えられないほど便利で、練習中に少し離席したい時にすぐSLB300を立てかけられる。頑丈な設計で立てかけたまま横に振っても倒れる気配がなく、地震にも耐えられそう。転倒防止用の黄色のストラップも付いていて、長期間外出する時はこれを使うと安心感がある。
•延長フレーム
身体と密接するフレーム部分は延長フレームを取り付けることができる。SBL300のフレーム部分に付いている穴に二本のプラスネジで取り付けられる仕組み。公式にはこの黒い木の材質が何か書いていなかった(おそらくブナ)。正直、材質不明の木を一本買うために8000円は高すぎる。そしてこの延長フレームは元からSLB300のデザインに組み込まれるべきだと思うほど、演奏の快適性が変わる。フレーム無しだとより本体が地面から垂直に鳴るのに対して、フレーム有りだとより本体を寝かせる形になる。後者のほうが、左手のシフティング/押弦がしやすい。また、細かいが色のバリエーションにSLB300のフレームカラーと同じ茶色が合っても良かったように思う。
◯ケースの収納、持ち運び
SLB300は付属する専用のケースに入れて持ち運ぶことができる。本体とフレームの取り外し、パッキングは2分も掛からず終わる。ただ、ケースに付属するストラップは細く、一本しか無いため、身体のフィット感がなく、持ち歩くと荷重分散されず重く感じてしまう。もう一本用意してバックパックのように背負うのが良いと考える。それでもコントラバスと比べて体積がないのは便利で、東京の駅の改札を通ったり、プラットフォームの人混みを避けるのが容易になり、電車移動の敷居が下がった。興味深いことにSLB300は魂柱がないため、輸送中、万が一外的衝撃があっても耐久性は高いので安心感がある。
◯その他
他メリットとして、コントラバスと比べ木材表面積が少ないので、気温/湿度変化による伸縮膨張→弦高の変化を気にしなくて良い。こまめに部屋の空気を入れ替えるため窓を開け閉めする私にとって大きな恩恵がある。また練習用楽器という観点では、サイレントベースが誕生した原点だけあって使い勝手が良い。楽器として質が高いだけでなく、深夜でも高音質で、かつコントラバスと違和感ないレベルで練習できる楽器は、コントラバス含め、他EUBにはない特徴だと思う。SLB300を手にする前は以下のようにミュートをコントラバスに貼り付けて、ピックアップから音を拾い、アンプ経由でヘッドホンで練習していた。
ただ、これだとミュートを付けたことによりサステインがかなり減退するため、本来コントラバスから出る生音と乖離した音で練習することになる。SLB300では、アンプで出す音よりも、よりクリアな音をヘッドホンでモニタリングできるため、SLB300に変えて練習するようになってから左手のビブラートやアーティキュレーションをより意識するようになった。また、サステインが伸びることから、弦のミュートが上手くミュートが出来ないと目立ってしまう。
総評として、35万円台の予算でコントラバスを買う場合、SLB300は選択肢の1つとして検討する価値はあると考える。楽器の質と音、演奏性どれも素晴らしい。日本に済んでいる場合、同じ価格帯ならハイブリッド単板や、Gligaのようなルーマニア産単板コントラバスも選択肢に挙がるが、携帯性や静音性を考慮するとSLB300がベストだと惟う。