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日本は梅雨のシーズンで鴻島でも降雨量が多くなると予想していた。瀬戸内海を囲む山間地帯のおかげで雨雲が少ないことが関係している。そのため天気は素晴らしく、毎朝目が覚めると青い海と空の景色を眺めることができた。宿泊客も少なく、コテージの仕事も忙しくなかった。そのため晴れの日は朝起きたらすぐにウェットスーツを着て海で泳いだり浮いたりしていた。その後練習し、13:15の船に間に合うように13:00に家を出て、歩いて港まで行き、船で本土まで15分間海を横断する。この季節の海は美しい。島の木々に深緑色が付き出して海の青さとの対照が綺麗に見える。13:30頃にお気に入りのピザ屋でマルゲリータとコーヒーを頼む。その後海が見えるカフェで16:00まで音楽を聴いたり色々作業をする。家にいると楽器が弾きたくなるため身体を引き離す必要がある。16:40の船で鴻島に戻り、家に帰って練習、ということが日常だった。


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田舎暮らしの利点だけを享受できれば良かったが、そうもいかない。島は虫のパーティー会場だ。暖かくなり夜に照明に惹かれて窓際にやってくる30匹ほどの羽アリ集団や、突如現れるムカデやゴキブリ、そして撲滅するのが難しいノミ。最初ノミが発生した時は、どれだけ殺してもベッドの上に飛び乗ってくるため、一晩中格闘することもあった。本土のスーパーマーケットの殺虫剤を部屋中に巻いて徹底的に掃除することで段々と減っていったが、身体中の至る場所に赤い斑点ができてしまい、掻きむしりたくなるような痒みで練習に集中できない日もあった。皮膚がノミに刺されまくって色素が沈着したり、チャドクガの幼虫の針で全身どの部分を触ってもドラゴンの肌かと思うぐらい皮膚が腫れ上がった。この災難の中での一番の気づきは、ボロボロになった皮膚で海水に浸かった直後、肌がまるでゆで卵かと思うぐらい翌日スベスベに回復することだ。海水の塩分やミネラルは皮膚の治癒効果がある。この事を知ってからノミにボコボコに刺されては海水浴、という事をほぼ毎日繰り返した。最近はやっと皮膚の回復力がノミの総攻撃を上回り、肌が元に戻りかけている。

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自然に囲まれて生活する中で虫は非常に厄介だと感じる。しかし生きる上でのスキルも身についた。最近はゴキブリやムカデが部屋に現れてもオートパイロットモードで冷静に対処することができる。私の直近の目標は外で生活することにある。自転車の後ろにキャンパーをつけて生活することを理想と考えているため、今から虫の対処法を知っておいて損はない。
右手 スリーフィンガーの改善
6月初旬は多くの時間をビーチで練習することに費やしていた。バッキングトラックやメトロノームを使わず、自身の足のタッピングとシンコペーションをより意識していた。同時に右手のピチカートする指の角度をできる限りに弦と並行にすることでより大きなサウンドを得られないかと試行錯誤していた。右手のスリーフィンガーテクニックは024年10月あたりからベースギターで、2025年1月からコントラバスに応用できないか練習してきた。ピチカートのあらゆる指の角度を試した結果、当初はエディ・ゴメスのような弦に対して指を90度にして弾いていた。次第にこの方法だとエレキベースではそこそこ音がするものの、コントラバスでは音が細いことに気づき、もう一つの方法として指を弦とできる限り並行にして演奏する方法も併せて練習していた。しかし後者の方法では出したいスピードが出せるとは到底考えられなかった。無理やりスピードを出すと2フィンガーと比べてあまりに指の回転が不自然に感じてしまう。アクセントを中指や人差し指でつけるのも困難だった。しかし指を併行にすることで指の多くの面積を弦を弾く際に使うため、大きなサウンドが得られる。ニールスの右手の動きをよく観察しているとやはり指の面積を多く使う弾き方しか選択肢がないことに気づく。そのため6月後半は開放弦を右手で弾く練習をしていた。このウォーミングアップだけで1日1時間は費やすことになった。今までそれだけ右手の意識が欠けていたため寧ろ今気づけてよかった。もし3フィンガーを教えてくれる先生がいたら、時間を無駄にすることなくより早く習得できたかもしれない、しかしそのような先生は地球上にほぼいない。コントラバのピチカートは人差指、中指の2フィンガーが主流で薬指を使用した3フィンガーは珍しい。そのため、毎回間違った練習をして、後から間違っていることに気づいて修正して、また間違えて修正してを繰り返していると、ごく稀にこのまま突き進むかそれとも諦めて2フィンガーにシフトするか悩むことがあった。正解が見えない中継続することは、失敗した際のサンクコストを考える脳の一部を常に機能停止しないといけないため、自己暗示が必要になる。
今月嬉しかった点として、エレキベースでようやく出したいフレーズが、それなりに安定したシンコペーションで出せることに気づいた。過去の録音したのを見返すと聞くに堪えないリズムだった。コントラバスはもう少し時間がかかる。あと数ヶ月かそれ以上か分からない、ただテクニック習得のゴールが段々と見えてきたのが嬉しい。
コントラバスの3フィンガーテクニックは真剣に右手を取り組む機会を与えてくれた。右手は確実に左手より重要だということが分かった。例えば左手の押弦をリラックスすることは、左手だけをを意識することで改善されるとは考えにくい。最小限のエネルギーを使った右手のピチカートによって、必要最低限の弦振動エネルギーを左手が無意識に計算して押弦するため、無駄に右手に力が入っていると左手がリラックスすることはない。この例はBrian Brombergの演奏動画を見てると顕著だ。彼の右手のピチカートはまる弦を羽で撫でるかのように脱力している。
右手の演奏方法を根本的に見直したことから、6月下旬まで精確なリズムを取るのが難しく、自身の演奏を録音したいとは全く思わなくなった。コントラバスを弾く楽しさを感じづらい月だったかもしれない。
ギア(エレキベースSELDER)
先月5月に入手したSELDERのエレキベースのカッタウェイ部分を削った。ギター用の指板をカットし、ベースに貼り付けた。G弦の高音域を延長する目的でつけたがSELDERのカッタウェイが浅く、左手が延長した指板に届かないことがあった。そのため地道に40番のヤスリで削るものの、数時間作業しても思ったよりカッタウェイが深くならない。この削る作業はSELDERのネックにも適用している。箱から開けたSELDERのネックはまるで指板とネックをそのまま付けたような板みたいなネックだった。従ってネックの横側を地道に削る作業が必要だった。SELDERのベースの材質の良さから感じられる音鳴りは無い、しかし今持っているYAMAHAのTRB10004Jより私好みのサウンドと弾いた感触がある。SELDERベースは値段が安いので改造することに躊躇しないで済む。フィンガーレストを取り付けるためにピックアップ部分に穴をあけたり、ボディを削りたいだけ削っても問題ないような気がする。指板やボディ、ネックは全て髪の白髪染め(黒)を使った。


コルトレーンチェンジ
7月はコルトレーンチェンジを学習していた。特にCountdown。この曲を知って以来いつか取り組まねばとずっと考えていた。今月やっとCountdownに取り組める。Key Centerが6つもあるので、沢山のキーを学べて大変お得な曲だと言える。Giant Stepsも含めてコルトレーンチェンジは一つ一つのフレーズを最小に分解する必要があるため、キーを徹底的に体得するには最適だと考える。例えばGiant Stepsを練習する前はB△キーに苦手意識を持っていたが、何の音に着地したらコードに当てはめることができるのか短い時間で強制的に考えさせられるため、B△ダイアトニックの要素を満遍なく理解できた。
今月聴いた曲
今月はチャーリー・パーカーのCherokeeをコピーしていた。バードのソロには一定の異常性を感じる。音に一切無駄がない。間違えても自信で押し通すというケースは存在する。バードはそもそも間違いが存在しない。フレーズ一つ一つがまるでパズルのピースのように型に綺麗に当てはまる。ここら辺にバードのソロに神秘性を感じる。音、リズム、アーティキュレーション全てが完璧でバードの作った一曲は奇跡としか思えない。
クリス・ポッターも最近よく聴いている。一曲の情報量が多すぎて1ヶ月を通して数曲をひたすら聴く作業となっている。毎回彼のボキャブラリーの多さとフレーズを変化させる柔軟さやキーを即座に変換する能力に驚く。またクラッシックのルーツを感じさせるフレーズが所々出てきて面白い。