【2024年11月の練習記録】人生はじめてのベースレッスン、革新的アプリ Moisesを使った練習、他

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印西/千葉/日本の日中の気温は14°前後になり、冬の始まりを感じる。ありがたいことに今月も音楽の旅を継続することができた。また、今年1月に購入したコントラバスを11/9 13:40に手放した。よく弾いた楽器なので別れるのは悲しかったが、新しいオーナーは大事に使ってくれることを知っているので、良い取引をした。

インターネットでこのコントラバスの売買取引をしているときに、一体どんな人が買いに来てくれるのか少し気になっていた。指定の公園で待ち合わせしていたら、まさかニューヨーク在住のプロベーシストが来るとは思わなかった。彼にコントラバスを手渡す時、少し立ち話すると彼はNYで15年活動していて多くのジャズレジェンド達と共演していることが分かった。印西という田舎町で彼と私が出会う確率はどれぐらいだろう。このような機会は2度と訪れないと思いプライベートレッスンを申し込んだら、二つ返事で引き受けてくれた。私のはじめてのコントラバスレッスンは有意義だった。今月はこのレッスンの件も含めて頭の中にあった考えをインターネットに残す。

1.人生はじめてのベースレッスン

公園で彼のコントラバスの試奏を聞いたとき、まず第一に感じたのは音のスムーズさだった。弦がビビることなく、音量が均一で自然な箱鳴りだった。私が弾くとどうしても弦が指版にあたる音がしてしまい、ダイナミクスの均一さに欠ける。私は弦のローアクションが原因だと考えていたのであまり意識しなかったが、後にこの考えは間違っていることに気づく。

ベースレッスンは彼の家に近い横浜市の公園で行った。千葉/印西と神奈川/横浜間は距離があるため、レッスンの場所を決めるのに迷った。千葉と横浜の中間地点である都内の市民/区民会館やスタジオ、カラオケなど候補はあったが、予約手続きが手間だと感じた。電車と徒歩でサイレントベースの運搬をしてみたかったこともあり、私から横浜の公園まで出向く旨を伝えた。

サイレントベースの運搬は予想以上に大変だった。本体6.8kgとケース合わせて凡そ10kg前後となるため、重量面ではコントラバスと大差ない。またケースのどの部分を持って歩くかによって運搬難易度が変わる。前回は付属していたストラップを肩に掛けて購入店から自宅に持って歩いたら、20分ぐらいで肩回りに疲労感がきた。負荷が肩、腕に集中するため分散できないかと考えたところ、バックパックのようにダブルストラップで背負えないか工夫した。

結果、これもシングルストラップと同じように体力を要した。ケース下部が足のふくらはぎに当たってしまい歩きにくい。ストラップの配置を変えて試行錯誤してもサイレントベースのケースを楽に持って歩く方法はなさそうな気がするため、次回運ぶときはキャリーカートの上に載せて運搬する。

待ち合わせ場所の公園は坂の上にあったため、サイレントベースとベースアンプが入ったバッグを持ち歩きながら坂道を登るのは体力を要した。身体の負荷の掛かり方が、昔雪山登山していた頃を思い出させる(数十キロをを背負ってゆっくり登っていくあたり)。

公園は広々としていた。当日の天気予報では降水確率が40%で、屋根を探したが見当たらなかったため、荷物をステージのような所の上に置いて彼を待った。

30分後彼が公園に現れ、挨拶を交わし15:15からレッスンを始めた。そこから日が暮れた17:30まで途切れることのない質問と回答のキャッチボールをした。NYで活動するミュージシャンの事情やリズムに対する深い洞察など、ネットには書いていないインサイトに深い感銘を受けた。また、誰もが知っているような基礎的情報であっても、彼の口から同じ内容を聞くと、その情報がいかに実用的か再認識させられる。例えば右手テクニックについて、彼は肩と腕全体の重さを使って弦を弾く動作をしていることが分かった(これは直接教わったことではないが、近い距離で彼の右手を観察すると明らかだった)。私の場合エレキベースから始めたこともあり、指を振り下ろす動作に頼っていた。過去に概念を理解していたつもりで腕の重さで弾く練習をしたことがあったが、体得までには至っていなかった。彼の動作と私の動作を比較すると相違点が明らかになった。私の右手の指は、弦にあたる一歩手前から当たる瞬間まで加速度が増し、そこから弦を振りぬくような動作だった。一方で彼の右手は、指が弦にあたるか当たらないかギリギリの距離から、モーメンタムが加わっていた。イメージとして私の右手はバットを振り抜いてボールを当てる動きに対して、彼の右手は柔道のように相手を掴んだ瞬間にモーメンタムを加える動きだった。この相違点から重要なことを学んだ。弦を”弾く”ではなく、”掴んでリリースする”の方が正しい。

彼からアンサンブルをサポートする役割としてのベーシストの在り方も学んだ。彼のメッセージは一貫していて’聴くこと’が重要であることを強調していた。例えば’聴く’に焦点を充てることでドラマーとグルーブで繋がることができる。彼によるとリズムだけ表面的にドラマーと合わせると、オーディエンスにはドラムとベースがグルーブで繋がっているように聴こえる一方で、アンサンブル内ではグルーブで繋がりを感じないと語っていた。

また、「ハイレベルなパフォーマンスが要求されるNYの環境でどのように緊張感を克服したか?」という私の質問に対して「自分の音の選択にフォーカスする」のではなく、「リスニングにフォーカスして周りに反応する」という考え方にシフトしてから緊張感を克服したと語っていた。

他にはリズム改善として、メトロノームのbpmを40以下に設定して音と音のスペースを意識しながら開放弦を弾く練習方法を学んだ。文字であらわすとシンプルだが体得するのは難しい。彼はバークリーにいた時はスケールやコードなどに焦点を当てていたが、リズムやウォーキングベースの基礎練習をもっと早く取り組むべきだったと強調していたのを思い出す。

彼は既にNYに帰ってしまったため、このレッスンの2度目があるか分からない。しかし今回の経験を得て誰かから直接教わる大切さを知った。ネットで得る情報より人間の声から伝達された情報は脳裏に焼き付きやすい。

2. 曲の楽器を分離することができる革新的アプリ: Moises

11月初旬のレッスン後、ベーシストとしてアンサンブルの立ち位置を強く意識するようになった。彼はドラムトラックを聴きながらウォーキングベースを練習することを推奨していた(Drum Masterをというアプリをおすすめしていた)。そのためスマホのアプリ Moisesを使って、エルヴィンのドラムを分離させてウォーキングベースを練習している。

Moisesの機能には驚かされる。本当に良い時代になったと思う。昔のジャズミュージシャンがiReal ProやMoisesを見たら嬉しさのあまり発狂するのではないだろうか(それか邪道だと考えるか)。少なくとも私はMoisesの機能を知ったときは未来を感じた。近い将来はAIとセッションする日が必ず来ると信じている。’マイケルブレッカーとジョーヘンダーソンを足して2で割った感じのソロをこの曲で’とお願いしたら演奏してくれるはず。

私がMoisesが素晴らしいと思う機能は2つあり、1つ目はAIによる処理で曲の楽器を分離できる機能。これを使えば、エルヴィンのドラムのコンピングに合わせて練習できる。フィリーやマックス・ローチ、および様々なドラマーのグルーブに合わせて練習できる。楽器を使って一緒に練習するだけでなく、ソロイストとドラムだけ、またはソロイストとピアノだけ、など組み合わて聴くと、今までと集中してリスニングする部分が変わるので新しい発見がある。

2つ目はSmart Metronomeを備えており、曲のbpmの変化に合わせてメトロノームが自動で追随してくれる。ウォーキングベースを練習するとき、リズムが複雑だと補助的にあると便利な時がある。一方でエルヴィンのドラムソロとかソロイストがポリミーター系リックを使うとテンポが狂うので精度はそこそこ。

3. ジョー・ヘンダーソン & ジョン・スコーフィールド、パット・メセニーのインタビュー

毎日何かしらのインタビュー動画を見るようにしている。今月は2つ記憶に残るインタビューがあった。一つ目はジョー・ヘンダーソンとジョン・スコーフィールドのインタビュー動画。今ブログを書いている時点ではこのインタビューを11月初旬に見たので詳細は忘れてしまったが、語っている内容のいくつかに感銘を受けた。例えば彼らは「昔と今のジャズの学び方の違い」を深く掘り下げている。昔は情報がない時代に手探りで学ぶプロセスこそが演奏者に個性を与えるといった内容だと記憶している。自ら出向いてミュージシャンに質問したり、好きなレコードを少しずつ集めて、曲を聴きこんだりする能動的行動過程に意味があるという。現代の若いジャズミュージシャンは強い自我(ジョーの言葉を借りるとstrong sense of who you are)が形成されないと膨大な情報に流されてしまい、個人が持つ音が養われないと語っている。これには共感する。私が考えるに今の時代は膨大な情報から逃れることは難しいため、自我の形成にもネガティブな影響が出ると思料する。プロパガンダ、イデオロギーやマーケティングが散りばめられたインターネットの渦に飲み込まれてアイデンティティがが確立される方が難しいと考える。

もう一つはパットメセニーのインタビュー。まず、パットメセニーは音楽への献身はもちろんのこと、論理的で分析家である印象を受けた。ジャコが無名だった時の彼との活動のエピソードや、コード進行をトライアド転回でアウトラインを意識している点など、内容全てが興味深い。特段面白かったのはメロディーラインの構成について41分あたりで語っている点。ハッピーバースデーソングのようにモチーフを展開するメロディラインを作れれば音楽はもっとユニークになると語っている。パットはモチーフ展開が得意なミュージシャンの例としてオルネット・コールマンやレスター・ヤング、ウェス・モンゴメリーなどを挙げていた。

他にもセロニアス・モンクの曲は即興を何度演奏しても飽きないと語っている点には同感しかない。例えばRound Midnightなどずっと即興しても飽きることがない不滅の曲だと感じる。

3. ギア関連(SLB300膝当て、BOSS Wireless system、ヘッドホン: HIFIMAN SUNDARA)

今月は小さな買い物がいくつかあった。一つ目はサイレントベース(SLB300)の膝当て(BKS2)。これはSLB300を購入した直後から興味があった。SLB300はボディが細いため、立って弾く場合左膝で支えることができない。これを解消すべくヤマハ公式の膝当てを入手した。結果として、予想はしていたが立って弾く場合、改造なしでは膝に当たらないことが分かった。

SLB300のフレームにネジを使って取り付ける

現在は膝当てを改良してSLB300との密着度を高める工夫をしている。このトピックの詳細は後に別のブログを書く予定。

2つ目の購入はBOSS/WL-20Lで楽器とアンプをワイヤレスで接続するデバイス。SLB300はアンプと離れることがないため今使っているケーブルで事足りるが、ベースギターを弾く場合、このBOSSのデバイスがあると便利だと感じる。ケーブルの煩わしさを感じることないので素晴らしい。しかし欠点はいくつかある。一つ目はサイレントベース用にアクティブベース対応のモデル(WL-20L)を選んだが、SLB300のアクティブ回路をOFF→ONにすると音が出ない。二つ目はパッシブベースで使用するとケーブルと比べて音がブライト寄りになる。理由はこのモデルはケーブル・トーン・シミュレーションが搭載されていないため。従ってプリアンプ内臓のアクティブベースなど、ケーブルによる音質への影響ない楽器に適している。一方でパッシブベースだと高音域にエッジが掛かったトーンになるため、レコーディングに使用することには適さない。私はこの独特なトーンが気に入っている。

3つ目はHifimanのSundara 開放型ヘッドフォン。開放型ヘッドフォンを試したくて入手した。しかし音質という点で驚くことはなかった。元々持っているコンシューマー向けのヘッドフォン: Bose QC35 iiより少し音質が良いぐらい。これ以上を求めるとアンプが必要になってきそうで、オーディオ沼の深さを理解しているため、敢えて踏み込まないようにしている。開放型なのでSLB300を弾いているとき、SLB300の本体の鳴りが聞こえてくる点は素晴らしい。一方でBoseのQC 35iiのケーブルレスに慣れているため、両耳から垂れているケーブルに煩らしさを感じるのは否めない。部屋で作業しながら音楽を聴くには、携帯とヘッドフォンを持ち歩かないといけないのが手間だと感じる。

4. リックの習得度合いをどのように判断するか

どのタイミングで特定のリックの練習をやめるのか判断するのが難しいと考えている。習得度合いを判断するのが難しいと考えている。12キーを一通りやったら終わりなのか、特定のスタンダードで数回弾いたら終わりなのか、それとも自分の頭の中で1秒以内にリックを12キーで再生できるまでなのか。頭の整理を兼ねて今月は自分なりのシステムを作ってみた。このシステムはリックの習得度合いを大きく3つに分けている

ⅰ Hearing Fluency(聴くことの流暢性)

リックがどこまでクリアに頭の中で再生されるのかの基準。3つの中で一番重要だと考えている。例えば覚えたてのリックで、譜面を読んだり、リックを再度聴かないと頭の中で再現できない場合は★1つ。努力を必要とせず頭の中でリックが12キーで再生される場合は★5つ。最低★4まで達成できたらリックの練習を終える。

ⅱTechinical Flueny(テクニックの流暢性)

リックをどこまで流暢に弾けるかの基準。私の場合はコントラバスなので、リックに対する左手/右手の運指を覚えているかどうかで判断している。頭の中で再生されていても弾き方が分からない場合★1つ。12キーをスムーズにコントラバスの下から上まで様々なポジションでリックを弾ける場合★5つ。

 ⅲContextual Fluency(文脈に当てはめる流暢性)

リックをどれぐらいのコード進行に当てはめたかの基準。1、2を練習しても、スタンダードに一度も当てはめて練習していない場合は★1つ。対して、様々なスタンダードやコード進行に当てはめて練習したら★5つ。

この基準を使って採譜したリックをリスト化して、習得度を可視化することに役立てている。

5. 今月よく聞いた曲

今月はマイケル・ブレッカーと共演しているマッコイ・タイナーのImpressionsをよく聴いていた。ブレッカーのこの曲のソロはリズムに焦点を当てると面白い。トライアドのリズムバリエーションが豊富だと感じる。いつものブレッカー以上にモチーフの展開も素晴らしい。彼の話している文章が一つ一つ繋がっている。

リックの宝箱のような曲でマッコイとブレッカーのソロを大量に採譜したら、処理するのが追い付かなくなってしまうぐらい。そして朝通勤時に自転車乗りながら歌うと楽しい曲でもある。11月初旬は先月から聴いている’Mr. JJ’やこの’Impressions’を聴きながら勤務先まで自転車で通勤した。

あとレッスンに行く電車の中でコルトレーンの26-2を初めて聞いた。この曲はコード進行が面白そうだったのであえてコード進行は見ないで採譜してみたら楽しい。パズルか数独をやっている気分になる。

Black Nileのエルヴィンのドラムソロも何度も聴いている。ドラムソロを集中して聴き始めると、はじめは何が起きているか分からないが、次第にビート1がどこにあるか聞こえ始める。そしてこのビート1を頭の中でリズムのアンカーにすると、他の難解なポリリズムの全体構成が見えてくる。この段々と分かり始める過程が面白い。例えるなら、最初は暗闇を手探りで歩くものの、暗闇に目が慣れてきて次第にどこに何があるか分かり始める感覚に似ている。

ソロをコピーしたNothing Personal Liveは8月中旬から毎朝一回は必ず聴いている。毎回新しい発見があるのが面白い。ブレッカーのソロをコントラバスで再現すると、ローポジションからハイポジションまで使うので運指の点でとても良い練習になっている。

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