【2024年10月の練習記録】ロン・カーターの右手、エルヴィン・ジョーンズの謎、コルトレーンの’Crescent’

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日本/千葉はまるで数週間前の猛暑がなかったかのように、一気に肌寒い気温に変わった。一日の気温差が±10°以上と高いボラティリティが起因して、狂うと思わなかったSBL300のチューナーに±20hzズレが生じたのを観測した。一方で楽器を練習しだすと途端に身体が温まるので、体温調整が難しい季節でもある。ただ今月もありがたいことに音楽に没頭することができた。

今月はこの前手に入れたヤマハのSLB300がどのような楽器なのか解明するところからスタートした。SLB300のレスポンスが以前使っていたコントラバスより繊細であることから、右手3フィンガーのミュートをより意識したり、求めているサウンドを出すために、ブリッジよりからネック寄りまで上下様々な指版のポジションで弦を弾いて検証してきた。右手改善の試行錯誤に充てる時間が多かった。また、ライン録音する目的で9000円の格安パソコンを導入し、Scarlett Solo経由でCatwalkを使って本格的にライン録音を始めた。パソコンの反応は少し遅いが、問題なく使える。

記憶が色褪せる前にインターネットに残す。今月は以下トピックが頭の中にあった。

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1 ロン・カーターの動画、右手ブリッジ寄りでピチカートすることの重量性

2 “Inner Urge” エルヴィン・ジョーンズの謎

3 コルトレーンの”Crescent”

4 “Mr. JJ” ブランフォード・マルサリスとマイケル・ブレッカーの競演

5 Alex Sipiaginの4度の使い方

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1 ロン・カーターの動画、右手ブリッジ寄りでピチカートすることの重量性

先月手に入れたサイレントベースから、どのように弾いたら良い音がでるか考えていた。その過程で右手のピチカートを改善する必要性に気づいた。改善アイディアをリサーチしていたところレジェンド ロン・カーターのインタビュー動画を見つける。

ベーシストのMarco Panascia氏が、カーター氏にレッスンを受けた時、右手の親指をマジックテープでコントラバス指板のブリッジ寄りに付けて練習する方法を習ったという話を聞いたことがある。動画内でもマジックテープを使ってブリッジ寄りの指版でピチカートする重要性を説明していた。ネック寄りでアタック強めに弾くのと、リラックスしてブリッジ寄りで弾くのでは、仮に同じ力が指に作用しても後者の方が良い音が出ると動画内で説明している。特段、カーター氏のピチカートは、指を弦と並行にし、人差し指を中指を付け、関節は曲げず人差し指側で弾くスタイルで、独特の空気感のある立体的なサウンドが心地いい。また、ワインコルクを薬指と小指で持ってピチカートする方法も説明している。これを試してみたところ、私の場合、人差し指、中指、小指の3本でピチカートするため、小指でコルクを抑えることは困難だった。ただ、指の関節をストレートにして力を入れずに弾くことに意識が向くエクササイズで、2フィンガーなら効果的かもしれない。

また、ロンカーターが勧めるマジックテープも指板のブリッジ寄りに付けてみたものの、マジックテープがすぐ取れてしまったため、プラスチックの透明ドットを導入した。これは100均によく売っている。

ドットの上に親指の第一関節周辺を置くことができ、親指がその上をうまくピボットする。また、自分の右手の位置リマインダーとして機能するので、ブリッジ寄りで弾くことを体得するまで暫くつけることにした。追記: ドットは一週間半ほどで粘着力が弱くなり、揺れるため外した(2回交換したため、一カ月付けていた)。ただ効果はあった。指版の末端に右手を置く習慣が身についただけでなく、求めているサウンドとそうでないものを聞き分けるいい練習になった。

カーター氏は指版上下様々な位置/角度でピチカートし、理想のサウンドを頭の中に叩き込む重要性を動画内で強調している。どのようなサウンドを追求しているかという目的より、どのように弾けばいい音が出るのか、に先に焦点が向いてしまいがちなので、目的を再認識させられるこの考え方は素晴らしい(聴くことがより重要という主張は、パットメセニーもこのインタビューで語っている)。他にはカーター氏の理想の弦高=鉛筆が弦の下に入るぐらいが最低基準という独自の公式を語っていたり、左手の親指をD弦直下に置くことや、左肘の角度をネック付近で若干持ち上げる重要性を語っている。カーター氏のベースに対する深い研究結果が解る。別Open Studioのインタービューでカーター氏は’ベーシスト(コントラバス)は、他の楽器と比べて物理的変数が音に影響しやすいことから、科学者のように検証を繰り返すマインドセットを持つべきだ’と説明している。独自の公式を追求し、それらをまとめた文献を公開し、世界中のベーシストに影響を与えているいるカーター氏はまるで科学者のようだ。

また音楽ストリーミングサービスも然り、レジェンド達の生の情報がインターネットから無料でゲットできてしまう今の時代に驚きを隠せない。私は素晴らしい時空に滞在している。

2 “Inner Urge” エルヴィン・ジョーンズの謎

エルヴィン・ジョーンズのInner Urgeのドラムソロを繰り返し聴いていた。

エルヴィンのドラムソロは8:14からはじまる

彼の言語を学ぶのはもちろん、どうしても繰り返し聴かなければいけない理由があった。それはInner Urgeのエルヴィンのソロが最後16バーをスキップしてヘッドに戻っている点だった。マエストロが理由無く途中でソロを終えるはずがない。そして仮に16バースキップしているのであれば、どのようにジョー・ヘンダーソンはヘッドに瞬時に戻ることができたのか。以下を推論した。

a. 前提としてエルヴィンのドラムソロは残りの16バーをスキップしてヘッドに戻っている

b. エルヴィンのソロ途中でマッコイ・タイナーがF#コードを弾き、瞬時にジョー・ヘンダーソンがそのコードに反応してヘッドに戻った

エルヴィンはInner Urgeのテーマのリズムをソロの至るところに散りばめていて、一見ポリリズムに隠れて聴こえづらいものの、実は今どこにいるのかリスナーに知らせている(顕著なのは最後の4コーラス目のヘッドから)。そのためエルヴィン主導であえて16バーをスキップしたとは考えずらい。あくまでこれは私の解釈で様々な解釈があるべきだと考える。芸術的選択として、構成をあえて意識せず演奏しきったとも捉えられる。この曲は深い分析ができることから、ジョーの傑作の一つだと改めて考えさせられる。ちなみに私の仮設が本当なら、ジョー・ヘンダーソンの耳は一体何で出来ているのか気になる。マッコイがF#出した後、続いてジョーがCを吹くまで1秒に満たない(Youtubeで9:37で再生速度をx0.25にすると分かりやすい)。

いずれにせよ、エルヴィンのドラムソロの熱量は凄まじく、今後も彼の世界観を追いかけていくことになりそうだ。

3 コルトレーンの”Crescent”

先月に引き続き、ブレッカーがインタビューで勧めてたコルトレーンのCrescentを10月初旬に聞いていた。

Crescentは名前の由来通り三日月形から来ていて(フランスのパン: クロワッサン(croissant)も語源が同じそうだ)ダークな曲調で混沌とした雰囲気がある。先月見たインタビューで、ブレッカーが’音はただの飾りに過ぎない、リズムを常に意識している’、という発言が脳裏に焼き付いており、Crescentもリズムを意識して聴いた。色を変えるために立て続けに出るトレーンの音数に圧倒されるも、彼らしいリズムが顕著に表れている。まるで英語を話しているかのようにも聞こえるLickもあった。このような気づきから、最近はジャズ=英語そのものだと考えはじめている。話は少し逸れるが、人間のリズムは、ハードウェア観点では心臓の鼓動が根源で、ソフトウェア観点ではプリセット言語とその言語の発音、訛り、文章の切り方に起因すると考えている。各国サーバーにいる人間それぞれのリズムの取り方が異なる事象を、ハードウェア/ソフトウェアの仮説で説明できないか考えている。トレーンの生まれた環境や話し方全てが彼のユニークなタイム感に貢献したなら、彼のバックグラウンドを深く追求することに興味が沸いてくる。

4 “Mr. JJ” ブランフォード・マルサリスとマイケル・ブレッカーの競演

ブレッカーのインタビュー動画を探っているとブランドフォード・マルサリスがブレッカーにインタビューしている動画を見つけた。二人の大柄な骨格はバスケットボール選手を彷彿させる(実際にブレッカーは高校ではプロのバスケットボール選手を目指していた)。

この動画のコメント欄を覗いてみると「Mr. JJ」という曲で二人が競演しているという情報を見た。

初めて夜に聞いた後、あまりの情報量に脳のメモリが不足してしまい、翌日朝まで音楽が聴けなかった。ブランフォードはやや落ち着いた暗めのサックスのトーンで、色をよく変えていることに気づいた。また、ソロがジグザグのように動いている。一方で、ブレッカーのサックスは明るめのトーン。高音域でのロングトーンで滞在するようなクライマックスの構築、豊富なリズム言語に圧倒される。アルバムリーダーのドラマー、ジェフ・テイン・ワッツもブレッカーのリズム言語によく追随する。ちなみにMr. JJはジェフの「Bar Talk」のアルバムに収録されている。’バーでの会話’というカジュアルなニュアンスとは対比して、Mr. JJはまるでスポーツのように熱い。

5 Alex Sipiaginの4度の使い方

先月聴いていたマイケル・ブレッカーのアルバム: Wide Anglesに収録されている曲: ScyllaのAlex Sipiaginのソロが気になっていた。カラフルで、ユニークなリズムの取り方をしていることに気づいた。彼のレコードを追っているとスタンダードのsoftly as in morning sunrise(朝日のごとくさわやかに)を演奏しているのを見つけた。

C-に対して4度から始まるFからのソロの取り方が自分の耳にとって斬新に聞こえた。メロディックマイナーの4度という考え方(C-△とF)や、ドミナントコードに対してトライトーンという考え方もできて(B7とF)面白い文法だと感じる。深く分析していないので多くは語れないが、Alexの耳に残るような独特の文章の切り方も魅力的だと感じた。

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