大学生の頃を思い出す。初めてコントラバスを左手で押弦した時の感覚。1cm以上あった弦高と弦のテンションも相まって、自分の頭の中のフレーズが出せるとは到底思えなかった。エレキベースでは使える左手の4フィンガーがコントラバスではシマンドルのスリーフィンガーによって制限されてしまう。3フィンガーだと3フレット分しかカバーできないので、スムーズ出せるフレーズだとAugmentedやInverted 3rd triadsだろうか。
あの時ハイポジションでは親指も使えるのでエレキベースのように4フィンガー奏法ができることを知った。Marco Panacia氏がローポジション寄りのネック付近で、親指を使って演奏している動画を見て感動したのを覚えている。ただ、それでもカバーできるフレット数は4つまでだった。今年は左手をどのように押弦するか研究した結果、自分にあった弾き方が見つかった。それはハーフポジション含むローポジションで薬指を含めて4本使うことだった。気付いたキッカケはまず、Yuri Goloubev氏のハイポジションのテクニックについての動画を見たことだった。
7分47秒の部分で左手の形が3種類あることを解説している。1つ目はメジャー3度まで親指から薬指を伸ばす、2つ目は親指から薬指を完全4度まで伸ばす。3つ目がマイナー3度まで。この方法を知ってからはハイポジションでは、フレーズの制限がある程度排除されたように感じた。親指のポジションさえ意識すればピッチは合うので、最大6フレットまでカバーできるのはエレキギターより守備範囲が広い。ハイポジションと同じようにローポジションでも同じように新しい可能性を模索しはじめた。
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Yuri氏の左手の動きは美しい。彼は特に指先で弾くことを意識しているように思える。私はフレットのあるベースギターから弦楽器を始めたので指の腹で押弦していた。指の押弦箇所で何が異るのか理解できていなかった。押弦箇所で大きな違いを生み出すことはYoutubeで知った。
この動画では22:23で指の腹で押弦するか、指先で押弦するかChris Fitzgerald氏が説明している。(彼はTalkbassのAdminでよくスレッドに登場する)。指の腹より指先に近づけば近づくほど少ない力で押弦できる。また、指先だとクリアでピッチが分かりやすい、指の腹では特にE弦、A弦では唸るような響きがある。ジャズベーシストは指の腹が多い。どちらが良いかはどのような音を個人が頭の中で聞いているかで、私はできる限り押弦する負担を減らしたかったのと、クリアなサウンドを好んだため指先のテクニックを選択した。ただ、指先のどこで演奏するか探すのに数ヶ月掛かった。爪直下の肉がない骨の近くで弾けば、よりクリアで少ない力で押弦できるが、各弦移動する際フレットしづらかった。指先爪直下でないといけないという強迫観念があったからか数ヶ月格闘したが、今考えるとあまり心配しなくてよかったように思う。というのも指先の押弦できる場所はある程度決まっているため、自然だと感じる箇所と直感を信じて練習すれば問題なかった。
Discover Double BassのLauren氏の指先のカーブをどう保つかの解説動画も参考になった。ジャズのベーシストで左手をよく見ると指の第一関節が潰れるケースをよく見る。指の腹に近い箇所で抑えると指が潰れやすくなる。指先で押弦するテクニックの場合は常に指の関節を丸くし、関節を潰さないようにする必要がある。Lauren氏の動画で指の第1関節をどこまで曲げるべきか解説していたのを参考にした。ローポジションでは第1関節が弦の真上にくるまで、ハイポジションは第二関節が弦の真上にくるまで曲げる。
左手のカーブを保つとシフティングが速くなり、腕の重さをそのまま弦に充てる感覚が掴めた。
またJohn Clayton氏の左手のビデオも参考にした( 4:03~)。ベースギターだとネックは割とフラットでネックを抑える左手の親指の位置を気にする必要はない。一方でコントラバスはネックが深いU型になっていて、ベースギターと比べると横幅はそこまで広くないものの、後方に厚みがある。そのため、E弦、A弦を押弦する際は、ネックを保持する親指を若干左寄り(G弦側)にシフトする必要がある。シフトせずに指先で押弦するとチャーリー・ヘイデンのように親指がE弦側から出るように握り込む形になる。野球バットを握るようなイメージ。この握り方は人間にとって極めて自然で合理的だと思う。野球バットのような厚い棒を本能的に握ろうとするとこうなる。
しかしこの握り方には一長一短があり、自然な握り方ができる反面、左手手首の回転モーションが使えなくなってしまう。左手手首の回転モーションというのは、親指、人差し指を起点に、人差し指から小指の方向に回転する動作で(私が勝手に呼んでる)、ローポジションでは人差し指以外の指で押弦する際に手首を捻る動作を押弦するエネルギーに変換できる。ハイポジションでは親指含め全部の指を回転モーションで押弦できるため、最小限のエネルギーで押弦ができる。(左手手首の回転モーションはYuri Goloubev氏の演奏動画を見ると分かりやすい。)
左手の回転モーションする時ではできるかぎり薬指、小指を畳んでいる。こうすると指のカーブがより意識され、カーブを保ちやすくなる。
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ローポジションで薬指を使うようになったのはMarcos Machads氏の演奏スタイルを知ってからだった。
Discover Double BassでMarcos Machads氏のインタビューを見た時は衝撃だった。親指をネックに固定せずピボットすれば、ローポジションでも薬指を使うことができる。ハイポジションのように6フレット分、完全4度まではカバーできなくても、メジャー3度、マイナー3度をローポジションでカバーすることができる。初めて試した時は本当にピッチがあうか疑問だったが、練習すれば時間と共に左手が新しいシステムに順応する可能性に気づいた。ハイポジションと同様、親指の位置を意識すれば、ローポジションでもピッチを見失うことなく、5フレット分カバーできるのは大きい。特にコントラバスのネック付近は、チェロのフレット間隔と同じだと動画のMachads氏は述べている。チェロは左手は4本指を駆使するため、コントラバスのネック付近で特に薬指を含めた4フィンガーは重宝する。
左手の4フィンガーを想像すると、フレットの間隔に合うようにシマンドルのように手をストレッチさせるイメージがあった。そのため実践すると不自然な動きになり、選択肢の1つとして考慮しなかったが、指間隔は常にリラックスさせた状態で良いことに気づいた。
4フィンガーではないものの、左手の形をストレッチさせないテクニックについて、Chris Fitzgerald氏の以下の動画は参考になった。
正しい練習をすれば指の間隔をストレッチさせてフレットに合わせることを学習できる(シマンドルの左手)。ということは指の間隔をフレットに合わせる動作をしなくても親指のピボットで音程を合わせることも練習を通して学習できる、という理論だった。
また、François Rabbathの動画も大変参考になった。こちらもシマンドルと異なるアプローチのRabbath(ピボット)方式を取り入れている。Marcos Machads氏もまた、Rabatthに大きく影響を受けて。今まで私が参考にしたプレイヤー達がシマンドルや他教義に拘らなくても自身に最適化したシステムで自由に演奏できる可能性を示してくれた。
最終的に今の私の左手のシステムはMarcos Machads氏が実践しているローポジションに薬指を取り入れる4フィンガーとシマンドルの3フィンガー両方をフレーズによって使い分けている。4フィンガーのシステムを練習する時は、例えば3本の弦(A, D, G)を使ってCマイナー7のC Eb G Bbを弾く場合は4フィンガーで弾く。C AugmentedのC E Abを弾く場合は3フィンガーで弾く。ウォーキングベースラインはほぼ3フィンガーで弾く。特段ネックヒール(※本体とネックの接合部の厚い部分を頼りに親指で音程が取れる)を使うときはシマンドルの方が良い。4フィンガーのシステムを取り入れる前はシマンドルのシステムと並行してインストールすると脳が混乱するか不安があったが、選択肢が増えるだけで混乱はなかった。
今後もしかしたら変わる可能性があるかもしれないが、要約すると今の私の左手のシステムは以下のようになる。
1: 指先で押弦
2: 指のカーブを保つ(ローポジション/ハイポジション共に人差し指の第1関節は弦に対してほぼ垂直)
3: ローポジションでは4フィンガー(薬指)と親指ピボットする。5フレットまでカバーする。
4: ハイポジションでは3種類の形を使用し6フレットまでカバーする(Major 3rd, Minor 3rd, Perfect 4th)
Marcos Machads 氏はDiscover Double Bassの動画インタビュー6:05でこう語る。
It’s the music that decides my fingering. It is not Simandl or Bille…
SimandlやBilleではなく、音楽が私の運指を決める