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年始は家にサイレントベースがない状態で始まった。サイレントベースは12/29にクロサワ楽器店で指板の延長依頼とフレットマークの埋め込み依頼をしていたので、1/18までベースギターで練習する日々が続いた。サイレントベースの練習ができない罪悪感が消えることは無かったが、久しぶりにベースギターのみを弾き続けることは悪くなかった。サイレントベースでは指が追い付かなくて出せないフレーズを弾くのはもちろん、フレットのおかげでフレーズの形を頭の中でイメージしやすいので、Lickを定着させることに役立つと感じる。
1月は楽器のアップグレードが多い月だった。サイレントベースを買うため、2024年2月からフルタイムでロジスティクスの仕事を千葉/印西市ではじめたが、以前から欲しかったものが大体手に入ったため2025年2月26日に退職することにした。フルタイムで大企業に勤めるのは安定した生活が得られる一方で、練習時間の確保が非常に難しい。今はとにかく練習が必要だと考えているため、今後は自転車の後ろにミニキャンピングカーのようなものを取り付けて(英語ではBike Camperという)そこで寝泊まり&練習できる環境を作り、パートタイムで生活することを検討している。
話は逸れたが、今月は主に3つのギアアップグレードをした。一つはYamaha TRB 1000Jを購入した。TRBはジャズを練習しはじめた大学生のころ、Christian EiwenがTRBを演奏している動画を見つけ、その煌びやかなトーンに憧れたのが興味を持つキッカケだった。TRBの6弦にも興味はあったが、サイレントベースの習得と並行して6弦を練習しようとすると時間がいくらあっても足りなくなってしまうと考えため、4弦にした。4弦なら多少サイレントベースの左手のシフティングと共通点がある上に、24フレット(High G)まであるため、サイレントベースとの互換性を重視した。また、友人からベースギターを借りたままで(GrassRootsという日本製のフェンダーっぽいベースギター)、ベースギターを改造することができないでいたので、そろそろ自分のベースギターを所有したかった。

TRBは音がブライトで高音がクリアに聴こえる。自分はPベースのようなダークなトーンよりブライトなトーンのベースが好きな傾向にある。一方で左手で精確にフレットを押さないと、弦がビビってしまい運指が難しい。フレットレスのように左手に注力する必要があると感じる。
2つ目のアップグレードはサイレントベースの弦をHericore HybridからSprocore Weich(Thomastik)に変えた。Hericore Hybridの音は同社のPizzcato Light Gaugeと比べて、芯がある音で気に入っていたが(Hericore Pizzcatoはダダリオのベースギター弦を連想させるようなレベルで人工的なブライト感があった)Spirocore Weichに変えてから音がよりジャズらしい輪郭がハッキリとした音になった。弦を弾いた瞬間の’カチッ’という音がSpirocore Weichらしくて、このエアー感が気に入っている。

また、Hericore HybridやPizzcatoと比べても弦のテンションが緩く、ピチカートがしやすい。開封して弦に巻き付けて最初に出した一音で「この音だ!」となった。Amazonでは3万円ほどで、コントラバス弦にしては高額だが意味のあるアップグレードとなった。
3つ目のアップグレードはクロサワ楽器店で改造依頼したサイレントベースの延長した指板とポジションマーク。サイレントベースは購入する前から指板延長する計画を立てていた。延長を施して高音をクリアに出したいという意図がある。例えばコルトレーンやマイケル・ブレッカーのフレーズをコピーする時に、一番高い音でHigh Cまで出てくることがある、その際、左手の薬指でその音域を抑えると、右手の人差し指でピチカートするスペースが残っていないことに気づいた。また、その僅かなスペースでピチカートしても音が伸びてくれないが、一方で指板が存在しないブリッジに近い部分でピチカートすると高音が伸びることに気づいた。試行錯誤した結果、コントラバスのHigh Gより上(24フレット以降)はブリッジよりの指板の無い位置でピチカートするのがベストだということに気づき、指板延長の必要性を感じた。

また、High G以下の音域であっても右手で延長した指板上(ブリッジ寄り)を弾く、ということがアンロックされ、トーンの選択肢が広がる。この改造はある意味でピックアップ一つ付けるようなものだと思う。実際に延長したサイレントベースをピチカートすると、より硬いトーンになり、より自分の出したいサウンドに近づいた。延長していない指板と延長した指板の上で弾くのでは、高音域での音の伸びがハッキリ分かるぐらい違う。改造して正解だった。

ちなみに延長した指板のハープ型は、鉛筆で取り付ける延長指板をなぞってデザインした。延長部分はG弦だけで本当は十分だと考えていたが、若干D弦まで延長しているほうが、G弦をピチカートした際に、D弦の延長指板上にレストすることを考えた。クラッシックで使われるような延長指板はどうやらA弦部分まで指板が伸びていて、自分のプレイスタイには不要だと考えた。ただ、E弦部分は1㎝ほど延長させている、こうすることで右手親指をブリッジ寄りギリギリの部分でレストすることができると考えた。

また、フレットマークは真鍮を選択した。最初は黒蝶貝にするつもりだったが、ネットで注文してから届くのに時間が掛かるのと、届いてもクロサワ楽器店で加工できないリスクがあった。フレットマークの材料について相談していると、クロサワ楽器からはある程度の厚みがあったほうが良いとの助言があり、貝だと厚みが足りない気がした。真鍮は金属の中で私が好きなのもあるが、そこまで主張しない落ち着いた金色が黒い指板にマッチすると考えた。Amazonで注文した2mmの丸棒をもってクロサワ楽器に加工依頼した。

何個入れても加工料金は変わらないと聞いたので、フレットマークをHigh Cにも入れるか迷ったが、あまりフレットマークを入れすぎてしまうと、逆に制限が掛かってしまうことを恐れて必要最低限の箇所に埋め込んだ。
ちなみに改造費用は5万円で、内訳はハープ型の延長指板が4万円、フレットマーク埋め込みが1万円。工期は三週間だった。サイレントベース受け渡しの際に担当してくれたリペアの方と話すと、4万円での指板延長は工数を考えると割に合わず、次回から10万円以上で引き受けると言っていた。他コントラバス(バイオリン)ショップ何件かに問い合わせたが、A. ブリッジ方向への指板延長はやったことないのでできない or B. 6~8万帯の見積もり提示、のどちらかの回答だったため、破格で対応してくれたクロサワ楽器に感謝している。
ブライアン・ブロムバーグとブランフォード・マルサリスのインタビュー
1月はサイレントベースが練習できない罪悪感を何かで打ち消そうとしてレジェンド達のインタビューをYouTubeで漁っていた。特に印象に残ったのはブライアン・ブロムバーグとブランフォード・マルサリスで、どちらも観客のために音楽を演奏するべきだということを強調していた。特にBrianはクレイジーなテクニックで熱量のあるベースソロを演奏することで知られているが、ベーシストとしての役割はアンサンブルをサポートすることで、ベースソロだけできても誰も雇ってくれないと言っていた。去年11月にNYのプロベーシストにレッスンを学んだ際にも全く同じことを言っていたので、ベースソロに意識が向いてしまう私は肝に銘じたい。またブライアンとブランフォードのどちらも、ベースがアンサンブルにおいてリズムを生み出す最も重要な楽器であることを強調していた。ドラムがリズムの要ではなく、ハーモニーとリズムの両方の特性を持ち合わせるベースこそがバンド内のそれぞれの楽器をつなぎ合わせる役割として最も重要だ、と二人とも同じことを言っていた。特にブランフォードはクレイジーなサックスのようなソロをベーシストに求めておらず、体内のパルスが強いベーシストを自分だったら雇うと語っているのを思い出す。
また、ブライアンはどのインタービューでも自分は音程フリークだということを強調している。A440はA440で、442でも438でもない。ベーシストがずれたピッチに気づいたら、即左手をずらして修正するべきだ、と語っているのを思い出す。また、コントラバスのベーシスト界隈ではハイポジションではある程度ピッチがずれても問題ないという暗黙の共通認識があることを批判していた。ブライアンがこのように考えるようになったきっかけとして、名前は忘れたがプロのクラッシックバイオリニストがソーセージのような巨大な指を持ちつつも、髪の毛レベルで細いバイオリン弦のハイポジションで一音もミスることなく、パガニーニの曲を笑顔で余裕そうに弾いているのを見たことに衝撃を覚え、ベーシストもハイポジションでの音程ミスは言い訳できないと語っているのを思い出す。このブライアンのインタビューを聞いてからはハイポジションの音程に対してより真剣に取り組む必要があると考えるようになった。
Branford Marsalisのインタビューからは、ジャズの歴史を勉強することがいかに重要かを考えさせられた。ある日ブランフォードがコルトレーンのカセットテープを聞きながら練習している際にアート・ブレイキーがやってきて、何をやっているのかと聞かれ、どうしたらトレーンのように弾けるか試行錯誤していると答えると、ブレイキーは「コルトレーンは未来の自分の演奏を録音したテープを聞きながら練習していたか?」と言い、その後ブランフォードはコルトレーンに影響をもたらした人物を考えるようになったそうだ。
実際にブランフォードが言うには、コルトレーン初期のある曲(どの曲だったか忘れたが)を周りに聴かせると、多くの人間は、演奏者がトレーンだと識別できないと言っていた。彼曰くトレーンはチャーリーパーカーにハマる前はJonny Hodgesの大ファンで、多くのコルトレーンを追いかけている人間はトレーンの本質的サウンドがどこから来ているのか見えていないと言っていた。この考えは目からうろこだった。確かにトレーンのバラードを聞くと、独特の「プワーッ」した出し方はJonny Hodgesから影響を受けているのが伝わる。自分のヒーローに近づくために彼らのフレーズだけでなく、彼らが辿ってきた人生の軌道を一から勉強する重要性をブランフォードのインタビューから学んだ。
今月聞いた曲
今月はマイケルブレッカーのアルバム: Two Blocks from the Edgeを聞いていた。去年からブレッカーのリーダーアルバムを中心にリスニングを続けているが、YouTube Musicでは、このアルバムはMichael Brecker Quintedのカテゴリに入るらしく、マイケルブレッカーのーページに飛ぶとこのアルバムが出てこないことから聴きそびれていた。ミレニアル世代のジャズファンが持つような悩みだ。アルバムソングのTwo Blocks from the Edgeはマイケルのソロを堪能するような曲でパワーとスピードに圧倒される。ブレッカーを追いかけていると、曲の全体感を意識せず、ソロにだけ焦点が向きがちだが、同アルバムのEl Ninoは曲という観点でも完成度が高いように聞こえる。