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12月になると千葉はかなり寒くなると予期していたが、今振り返ると季節の変わり目の11月の方が体感寒かった。12月の方が平均気温は低いものの、身体が一度気温に慣れてしまえば快適だと感じる。11月は部屋が10度前後になり練習するのには指先が冷たいため、12月にダイソンの暖房機能付きの空気清浄機を取り入れた。
冬は虫がいなかったり、星空が綺麗だったり、汗をかくこともなく快適な点も多い。一方で太陽からのビタミンD接種不足になったり、外出前に着替えに時間が掛かったりで、外出イベントを計画的に組み込まないと練習の時間が減ってしまうことが分かった。今月は全体の練習時間は減ったが、自身の課題であるリズム感とアーティキュレーションの改善に注力することができた。先々月、先月とリズミカルなリックの採譜が第一優先事項であったことから、基礎的な課題に向き合ってこなかった。そのため解決策を試行錯誤することができたので実りのある月になった。今月も音楽に没頭できたことに感謝している。
1. 今月よく聞いた曲 (Moment’s Notice, Outrance, Don’t Try This At Home)
Moment’s Notice
今練習しているスタンダード。トレーンのオリジナルバージョンは2024年2月-4月にソロをコピーする過程で飽きるほど聴いたので、あえて聴かなかった。代わりにArturo SandovalとMichael Breckerが共演しているバージョンとDanny Grissettのトリオのバージョンをよく聞いた。Arturo Sandovalのソロはブレッカーのソロに圧倒されることなく力強い演奏が素晴らしい。Danny GrissettのトリオはDannyの並外れたリズム感だけではなく、ドラマーの言語の多さとダイナミクスの使い方に驚く。ドラムソロが面白く何度も聴いてしまう。
Outrance
Outranceはマイケル・ブレッカーのリーダーアルバム: Time Is of the Essenceを聴き始めた時に発見した。ブレッカーは、自身のリーダーアルバムの最後のトラック(と2曲目)に誰もが驚くような曲を配置することが多い。アルバム「Wide Angles」のNever Aloneもそうだし、「Tales From The Hudson」のCabin Feverや「Michael Brecker」のMy One And Only Loveも一度聴いたら忘れられないぐらい印象に残る。Outranceも「死闘」という意味に相応しいぐらい激しい。エルヴィン・ジョーンズとの競演でブレッカーも普段以上に魂を込めた演奏をしているのが伝わってくる。全体の曲調はCマイナーとディミニッシュでブレッカーの得意とするキーだと感じる。勿論彼はどの曲でも完璧なソロを弾けてしまうが、彼の激しめの曲、例えばPeepやCool Day In Hellなど、縦横無尽に探検しているのを目の当たりにすると、もはやCマイナーを完璧に吸収した結果、音に縛られず無調寄りで自己表現しているのが分かる。特段、1999年のTime Is of the Essence のアルバムのブレッカーはSteps時代や「Michael Brecker」アルバムの1987年の時と迫力が違う。言語化すると’音の密度が増した結果、激しくなった’という説明が、私が感じているニュアンスに近い。また、普段から雪崩のようなエルヴィンのドラムソロを聴いているとOutranceでは物足りなさを感じるかもしれないが、当時71、72歳でブレッカーの狂気じみたソロと対等に演奏しているエルヴィンに驚かざるを得ない。
Don’t Try This At Home
Don’t Try This At Homeはアルバムのタイトルであるにも関わらず、マイケル・ブレッカーの曲の中ではあまり注目されていないように感じる。同アルバムのItsbynee Reelは92000回Youtubeで再生されているが、Don’t Try This At Homeは14000回しかなく、同アルバム内では下から数えて2番目に人気がない。勿論再生回数と曲の質には相関関係がないことはジャズミュージシャンなら知っていると思う。しかし曲の完成度の高さを考慮すると本来もっと注目されても良い。初めて聴いた時は意味不明過ぎて衝撃的だった。自転車に乗りながら聴いていたらおそらく交通事故に遭っていただろう。Don’t Try This At Home(’家で試すな’)が曲名ではあるものの、家で試せないレベルのため皮肉で付けた曲名が良い。曲中盤では、ブレッカーがリズムを崩したような形式でロングトーンで退場し、リズム消えたかと思えば、ハービー・ハンコックがグルーブをキープしていて、鋭いソロを突然弾き始める。また、ヘッドからハイスピードで転調しているため、大衆にとってはキャッチーで「音楽的」でないことから再生回数の低さに繋がっているのかもしれない。一方でこの曲のヘッドをハミングしようと思っても難しいのでわからなくもない。
2025年1月時点では、普段聴く音楽はコルトレーンかブレッカーが殆どで、他のアーティストの曲に対してどのような普遍的感想を持つか分からないが、少なくとも私はトレーンやブレッカーの曲を初めて聴いた時の’何やっているかよくわからない、あまり好きではない’という感情を大切にしている。この感情は自身の理解力が及ばないことに起因すると考えているため、深く探れば実は宝石が隠されている可能性が高い。例えば去年10月に初めてトレーンのCrescentを聴いた時もそうだった。最初は頭が処理できなくてドーパミンが出ないが聴けば聴くほどその深さにハマってしまう。思い返すとこの’何やっているかよくわからない、あまり好きではない’という感情はコルトレーンやブレッカーを人生で初めて聴き始めた時に誰もが抱く普遍的な感想なのかもしれない。
2. トライアドの練習
先月パットメセニーのインタビュー動画を見たり、自身の演奏を見返したりしていると、トライアドを練習しないといけないことに気づいた。そして練習するともっとはやく取り組むべきだったと後悔した。運指のエクササイズとして、またキーの構成音の理解として、過去にトライアドを練習していたことはあったが、ソロのツールとしてあまり注力したことはなかった。リズム言語もなかったので、ソロでどのようにトライアドを使うか過去の私は想像できなかった。寧ろアルペジオの4つの音(R、3度、5度、7度)の方が好きだった。
トライアドを練習することで得られるスキルは非常に多い。スケールの構成音を体得できるだけでなく、リズム言語をより意識しないと単調に聞こえるため、リズム感も向上する。しかしトライアド転回を意識してコードのアウトラインをなぞる練習は、簡単そうに見えて難しい。当初はアルペジオのように1度、3度、5度、7度の4音を使う方がトライアドよりも難しいと考えていた。しかし実際はオプションが限られているほど、クリエイティブな表現を心がけようと、より複雑なリズム言語を組み合わせようとすることから脳のCPUを使う。あと弦楽器はトライアド転回をした際に、ルートと5度が指版上4度間隔の関係にあるため、若干の左手の弾きづらさを感じる(慣れるまでに時間が掛かる)。更にはディミニッシュスケールのように多くの音が並んでいると、指版上、音と音のインターバルは大きくないため、次の音を見つけやすい。一方でトライアドは音の間隔が離れていることから、指版上で次の音を探すには、そのトライアドを体得できていないと瞬時に弾けない。このことからトライアドが基礎と呼ばれている理由が分かる。時間をかけて取り組めば、リズム、ハーモニー、及びテクニカルな観点でレベル底上が期待できる。バッハの曲がジャズミュージシャンにとって、良いエクササイズになるのはこのような理由からだと勝手に解釈している。
テクニカルの観点では、トライアドの習得は難しくない、但し時間が掛かる。別の観点で体得までの道のりを考えてみるとトライアドのパターンは限られていて、全部で144個しか存在しない。メジャー、マイナー、ディミニッシュ、オグメンテッドの4つの音に対して3つの転回がある。これを12キー練習すると3×4×12=144となる。数字だけみると日本で育った人間からすると、例えるなら日本の小学校で習う漢字が約1000個なので、144個を記憶する事の難易度は低いようにみえる。ただトライアドの難しさは体得した構成音を、正しい文脈上瞬時に弾く弾く必要があるため、頭で聴いた音が指版上見えないと演奏ができない。これはどのリックの体得についても概ね同じことが言えるが、特段トライアドのようにインターバルが離れていると頭で聴いた音楽とマッスルメモリーが一致していないと出せない難しさがある。話は逸れるが、この難しさが理由でベースギターの5弦、6弦を避けている。指版が増えるほど演奏できるトライアドの数や音と音の関係性が増えていくため、体得に時間が掛かる。4弦でさえもたった一つの音を体得するのには、この関係性の整理に理解するのに膨大な時間が掛かる。勿論5弦、6弦であっても左手の上下移動で演奏したい音をカバーできるが、左右の大きなシフティングは避けて通れない道だと考えている。
3. Moiseアプリをソロ分析に使う
12月はウォーキングベースを練習することが多くなり、AIによる音分離機能を持ち合わせたiOSアプリのMoisesをよく使うようになった。このアプリはウォーキングベース練習用に当初インストールしたが、ソロ分析/コピー、日常的に音楽を集中して聴きたい時にも使える。ウォーキングベース練習用としては、ベース音を排除すれば、よりリズムセクションとの繋がりを意識できる。ただ12月はMoisesの使い方をよりソロ分析/コピーに使うようになった。キッカケはMoisesでキーを変更することができることに気づいてからだった。また、音楽再生する時に出てくるボタン「➤➤」(←このような見た目)が曲スキップボタンだと勘違いしていたため、この紛らわしいボタン「➤➤」で数秒先に行ったり後に戻ったりできることに気づいて以来、ソロ分析に役立つことに気づいた。
Moisesは間違いなく最近の音楽アプリの中では革命的なアプリに位置づけされると考えている。ここ数日は頭にインストールしたいソロをMoisesでソロイストの音のみを抽出して、12キーでソロの部分だけループで延々と再生している。この転調機能が非常に便利で、例えばSoftly As In Morning SunriseはC-で聞き飽きていたが、これを使えば12キーで好きなアーティストのSoftlyを聴くことができる。更にYoutubeでアップロードされている良質なバッキングトラック(Phil Wilkinson Musicなど)をMoisesに入れて全キーで練習できるので素晴らしい。今まで聞き飽きた曲も12キーで聴けるので新しい発見がある。
4. 今年一番聴いた音楽
今年はマイケル・ブレッカーのリーダーアルバムを中心に聴いていた。以下リストはお気に入りの曲というより(勿論お気に入りではあるが)分析するために何度も聞き返すことが多かった曲。分析過程で深いラビットホールに入り込みすぎてしまい抜け出すことが難しかった。
- Inner Urge By Joe Henderson
- Moment’s Notice By Trane
- Syzygy by Michael Brecker
- Recorda Me by Michael Brecker
- Crescent by Trane
- Naima by Michael Brecker
- Impressions by Michael Brecker(Mccoy)
- Nothing Personal (Live) by Michael Brecker
- Giant Steps by Michael Brecker
一番聞いたアルバムは間違いなくマイケル・ブレッカーの「Michael Brecker」。聴きすぎてセンチメンタルさやノスタルジアを通り越して一時的に飽きてしまったが、上述のMoisesアプリを使えば12キーで聴くことができるのであと11年は退屈することがなく聞き続けることができる。
「Michael Brecker」のアルバムジャケットを友人がプレゼントしてくれた。
5. ギア関連(サイレントベース用膝当て、ダブルクランプ)
2024年11月にサイレントベース SLB300用の膝当てを入手したものの、座奏用に作られているため、立った姿勢で左膝に当てられないか工夫をしてきた。
試行錯誤した結果、固定する箇所両方が回転するダブルクランプを使うことに落ち着いた。
これを使えば角度の微調節ができるため、フィットしやすい位置を決めやすい。これに加えてギター用足置きを左足用に使うことで、ほぼ座奏に近いポジションになる。